にわか大根

『にわか大根』(猿若町捕物帳3) 近藤史恵 光文社文庫

シリーズ2作目の『ほおずき地獄』がなかなか出ないので、待ちきれずに『にわか大根』に手を出してしまった。『吉原雀』『にわか大根』『片陰』の三編を含む短編集。三編は独立しているけれど、いくつかのエピソードや脇役がつながっていて、一つの本としてもまとまっている。

堅物の同心玉島千蔭、子分の八十吉、千蔭の父の千次郎と若い妻(千蔭の義母)お駒、中村座の女形の水木巴之丞、歌舞伎作者の利吉、吉原の花魁梅が枝、それぞれの人物が個性的で魅力的だ。そして芝居や吉原のような表面は華やかな世界を描いていても、三編ともにちょっと物悲しい話だった。そんな中、お駒の従姉妹おふくをめぐるエピソードや、絵師国克の登場する場面が明るくてバランスを取っている。

まだまだ続きそうなシリーズ、千蔭はともかく梅が枝が終わらせようとしないだろう恋路の行方もあって楽しみ。いや、それよりも『ほおずき地獄』の再販が先だ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

僕僕先生

『僕僕先生』仁木英之 新潮文庫

名前に惹かれていつか読もうと思っていたのが文庫になったので買って来た。予想に反して僕僕は女性。それも少女。仙人なので齢ン千年らしいから、少女なのは外見だけとも言える。しっかりと書かれているわけではないが、見た目どおりの少女の頃に何かがあって仙界に身を移したらしい。だから人間としての経験は外見のとおりなわけで、少女らしい気持ちがたくさん残っているように思える。

仙人になるには仙骨というものが必要だが、仙骨はないにしても仙縁を持つ青年、王弁がいる。仙縁がないと、仙人と会ったりすることも叶わないらしい。(仙人のほうから会いに来てくれれば別だけれど、無理に結んだ縁は良い結果をもたらさないという。)王弁の父親は金持ちで、働かずに遊んで暮らせるほどの金を持っている。仙縁も冨も持っているとは、なんとうらやましい。で、働かずに遊んでいるならと、仙人の弟子をすることになる。勤勉実直な父と怠け者の息子、人をくったような仙人のやりとりが面白い。

仙人の弟子と言っても仙術の修行をするわけでもなく、師匠と酒を飲み、旅の供をし、どちらかというと仙人の遊び相手をしている。うらやましい。旅だって、とんでもない世界に連れて行かれて、想像もつかない経験をしている。いわゆる厳しい修行はしていないけれど、ものごとをあるがままに受け止めて、自分を飾らずに生きていくことを身につけているのが、僕僕先生の教えなのかもしれない。

続編があるらしいので、さらに荒唐無稽な旅の話が読めると思うと楽しみだ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

夢から、さめない

『夢から、さめない』白倉由美 角川文庫

3組のカップル、それぞれが登場する短いエピソードの積み重ねで始まる。そして、それぞれの軌跡が交錯するところに「動物園襲撃計画」の記されたノート。新月の水曜日に、檻から放たれる動物たち。夢なのか、現なのか。登場人物たちの語りで紡がれていく物語は、儚く美しい。あんまり儚い雰囲気だったので、最初、ホラーかもって警戒したけれど、そういう話ではなかった。

3組6人の少年少女は、それぞれに個性的なのに、ときどき誰なのかわからなくなって、何度も頭の中で整理しなくてはならなかった。もとはラジオドラマだったとのことだけれど、確かに声という性格付けが加わったほうがわかりやすい話なのかもしれない。(とは言っても、私は声を見分けることが苦手なので、やっぱりよくわからない可能性もある。)

登場人物それぞれの出会いが偶然というにはあまりに無理があり、ご都合主義な感があるけれど、たぶん「動物園襲撃計画」が本当の意味の主人公で、ノートを見た少年少女が次々に計画に魅せられて決行してしまうという話だと考えれば辻褄が、やっぱり合わないか。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

アイスクリン強し

『アイスクリン強し』 畠中恵 講談社

明治23年。西暦で言うと1890年。江戸が東京になって、怒涛の文明開化の波をくぐって、それでもまだ江戸の名残もあるそんな時代。武士は士族となるが元旗本の息子たちは商売も下手、読み書きができるのを武器に巡査の試験に合格した連中、通称若様組。もちろん巡査としての公式のチームではないけれど、同じ境遇のもので助け合おうという集団。その集団のリーダー格の長瀬。(この人は、苗字だけで名前が出てこない。脇役でも名前の出てくる人がいるのに不思議。)そして長瀬の親友で、西洋菓子の店を軌道に乗せようと奮闘中の皆川真二郎。成金令嬢の小泉沙羅。そんな若者達が帝都東京を舞台に、騒動に巻き込まれたり、それを解決したりする。

明治になって23年も経てば落ち着くだろうにって思うのだけれど、23年って思ったより短い。平成だってもう21年だけれど、今でもこの呼び方に慣れていない自分がいる。(西暦との変換がうまくいかないってだけかも。)平成になってからの21年は大きな変化がないけれど、明治の最初は、鉄道や郵便の発達など世の中も価値観もががらりと変わった時代。そんな不安定な時代が背景。表題にもなっているし、この本に出てくるワッフルやシュークリーム、アイスクリンは、どれも、とても美味しそうだけれど、きっと明治の時代には美味しいだけでなく物珍しく人気だったろう。

もちろんヒロイン沙羅も魅力的だが、それ以上に脇役で異彩を放つのが若様組の巡査の一人で園山薫という男。長身で見目麗しいけれど剣が立ち、暴走するとサーベル振り回して2,3人は殺めてしまいそうな怖い男。そんな風にならないようにと常に若様組の誰かが同道するようにしているというのが面白い。巡査の仕事って、そんな融通がきくの?でも、まぁ、ことが起こってからじゃ遅いもんね。もしかすると園山を暴走させないってのが、若様組の存在意義?

若者たちのやりとりも楽しいし、社会情勢との関連で見るのも面白い一冊だった。続きはないのかなぁ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

ブラッドオレンジ・ティーと秘密の小部屋

『ブラッドオレンジ・ティーと秘密の小部屋』(お茶と探偵7) ローラ・チャイルズ ランダムハウス講談社

気がつくとシリーズ7作目。さすがに7作目となると、セオドシアをめぐる人間関係も一点だけは変更あり。ちょっと影が薄かった彼氏はいつの間にかニューヨークに転勤。そのかわりと言ってはなんだけれど、パーカーが登場して、セオドシアといい雰囲気になっている。

人間関係はともかくチャールストンの町はあいかわらずイベントが一杯。新しくヘリテッジ協会に寄贈されたヴィクトリア様式の屋敷の補修費用捻出のためのキャンドルライトコンサート。ウーメン・エキスポや犬の展示会もある。インディゴ・ティーショップでは、政治家の選挙活動のためのお茶会も開かれる。そんな中でも友人に殺人事件の解決を頼まれたら断れずに、いろいろと首を突っ込む主人公、セオドシア。もうちょっと自分の安全を考えて、警察の傘に隠れていればいいのにと言う場面もあるけれど、そんなことを言って聞くくらいだったら最初から殺人事件をかぎまわろうとはしないだろう。

今回も美味しそうなヘイリーの料理の数々。作中ではレシピ本出版なんて話もあるけど、もしかしてUSでは本当にレシピを集めた本が出ていてもおかしくない。もちろんグレイトンのお茶の薀蓄も欠かせないのだけど、こちらは、実際に飲んでみないとちょっとイメージがわかない。

ドレイトンやヘイリーも元気にセオドシアと一緒に話を盛り上げるし、ティモシーやミス・ディンプル、リピーおばさん、そしてもちろんデレインも欠かせぬ脇役として登場。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

名探偵の呪縛

『名探偵の呪縛』 東野圭吾 講談社文庫

『名探偵の掟』で主人公を勤めた天下一探偵が再び登場する長編作品。とは言っても、同じ手でもう一冊書くには特殊すぎる前作。というわけで今回は、作者が物語世界に迷いこんで探偵役を勤めるメタフィクションの体裁を取っている。

舞台はどこにでもありそうな町。でも絶対に実在しない町。欠けているものは歴史。そして。。。前作と趣はずいぶん変わるけれど、本格推理をテーマに、本格推理に対する思いいれは、よりストレートな形で描かれている。そして、なにより、メタフィクションであるのに読みやすかった。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

女悪魔の任務

『女悪魔の任務』(魔法の国ザンス19) ピアズ・アンソニイ ハヤカワFT

ザンスの世界では3は大事な数字である。魔法使いハンフリーに質問するための三つの試練。クエストでは困憊恩を加えて3人ということが多い。そして、大雑把に三冊ごとに一組になっている(三部作が集まっている)と言われる。その三部作が三つ集まったものが二つ終わったのがこの巻である。18ではなく19巻になっているのは、途中でコンピュータゲームのための巻があったからだ。

特別な意味を持っているこの巻のテーマは裁判。女悪魔のメトリアが、召喚トークンを持ってザンス世界を飛びまわり、主要な登場人物たちを召集する。その数30。もちろんこれまでの主要な登場人物は30では足りないから、傍聴人として裁判を見に来る人もいる。さらにザンスの最初の頃の王の歴史も語られ、ザンスシリーズ全体の総まとめになっている。もちろん、コンピューターゲームのエピソードも大事な要素になって、ザンス史に組み込まれている。

総集編みたいな巻だけれど、話そのものの骨格はいつもの通り。三つの試練、回答の結果としてのクエスト。コンパニオンたち。大人の陰謀。しっかり楽しむことができる。もちろん言葉遊びもたくさん。ずーっと前の巻からひきずっていた問題も解決され、すべて幕引きになるのではと心配になったが、あとがきで「まだまだつづきます」と書いてあるので一安心。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

月光

『月光』誉田哲也 徳間文庫

姉の死の本当の理由を探るため、姉と同じ高校に進学し、同じクラブに入る妹。その妹に協力するのは、写真部の先輩だったり教師だったり、彼らも真相を知らない。その真相とは。関連する人々の立場で語られる過去と現在が一点に交わるときに明かされる。

話の盛り上げ方はいいし、興味を引っ張っていくのもうまい。でも、嘘っぽい。優等生の女子高生と冴えない中年音楽教師の恋。学校内での不倫なのに無防備すぎること。都立だけどそこそこ進学校という学校に、明らかに頭が悪そうな不良がいること。後にモデルデビューするはずの男子校生なのに、ちっともかっこよくなく絶対にもてそうにないこと。一つずつだったら、まぁ、そういうこともあるかもしれないと思う。事実だったら、文句をつける筋合いじゃない。でも、小説でこれだけ「あるかもしれない」を積み重ねちゃだめだ。もっともらしさが、かけらも見えなくなっている。

それでも、真相が明かされる前後は物語に引きこまれるし、ラストシーンは哀しいけどきれいだ。凄惨な事件と対比させたいという気持ちはわからないでもないけれど、物語に現実味がないとやっぱり絵空事でしかなくなってしまう。まぁ、現実味があったらもっと悲惨なイメージで、それはそれで読むのが辛かったかもしれない。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

名探偵の掟

『名探偵の掟』東野圭吾 講談社文庫

偶然、テレビ版の初回放映を見て、面白かったので本を買ったのだけれど、予想とはまったく違った内容だった。名探偵がイケメンではなくて、よれよれスーツにもじゃもじゃ頭だってことだけじゃない。(それもあるけど。)でも、これはこれで推理小説のパロディとして面白い。

推理小説には謎が不可欠。たいていは、犯人が誰かが謎だけれど、ときには犯行方法だったり、アリバイ崩しだったり、ともかく謎がないと推理できないから、推理小説にならない。でも謎さえあれば、後は推理小説のお約束に従っていればいいのだろうかという命題への挑戦。なのかな。シリーズキャラクターである名探偵と脇役警部が、推理小説の掟について地の文で語り合ってしまう、こういうのもメタ小説なのか。

私は推理小説をよく読むほうだけれど、「作品中の探偵のように論理的に犯人を当てようとする読者など、皆無に等しいからである。大部分の読者は、直感と経験で犯人を見破ろうとする。」(本文53ページ)なんてくだりを読んで、自分のことかとギクッとするくらいいい加減な読者だ。特に空間認識が苦手なので、密室とか、部屋がたくさんある屋敷とかの描写は、いくら読んでも頭に入らない。わからないけれど、それでも謎がある小説のほうが面白いと思うのが面白い。

この本には、謎解きを期待してはいけない。収録されている十二話ぷらすアルファ、それぞれで一応の謎解きはあるのだけれど、それよりも、推理小説を斜めに眺めて楽しむのがいい。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

シュガー&スパイス

『シュガー&スパイス』 ジョアン・フルークほか、 ヴィレッジブックス

お菓子探偵ハンナのシリーズの番外編が入っているというので、ミステリと思っていたら、クリスマスでロマンスなアンソロジーだった。

『ホワイトナイトにキスをして』 ビヴァリー・バートン。吹雪の山中で自動車事故。助けてくれた男性とお互いに一目ぼれ。死んだ夫の思い出に囚われている女と、人間嫌いの男。大甘、ハーレクィン風ロマンスでした。

『ツリーがくれた贈り物』 ファーン・マイケルズ。こちらも一目ぼれのカップルが登場するのだけれど、それぞれ片親との関係がギクシャクしていて、それがクリスマスの奇跡で万事がちょうどよいところに納まってハッピーエンド。二つの親子、二つのカップル。それぞれ対比させながら話が進行していくのが面白かった。クリスマスにツリーを買いに行くのが、家族の楽しみって感覚も新鮮で面白かった。

『秘密のサンタ』 シャーリー・ジャンプ。クリスマス前の12日間、オフィス行事としての秘密のサンタの贈り物。アメリカの会社らしい楽しみが面白い。(そういえば『魔法株式会社』のシリーズにも、秘密のサンタって出てきたけれど、こういうのって一般的なのかしら。)恋愛関連の表現がちょっとどぎついのが難点。

『クリスマスデザートは恋してる』 ジョアン・フルーク。今回はハンナの妹、アンドリアの高校時代の親友ジュリーが主人公で、舞台もレイク・エデンから30キロほど離れた町にある寄宿舎つきの学校。クリスマスのシーズンを親と過ごせない子どもたちと一緒に過ごすことになり、せめてもの楽しみで毎日、違うデザートを頼もうってことになり、そこでハンナが登場。あいかわらずフットワークが軽く、クリスマスの12日間のデザートに加えて、子どもたちにお菓子作りを教えたり、ジュリーの恋路を手助けしたり。それにしても、寄宿舎つきの学校って、もっといかめしいところだと思ったのに、なんだか楽しそう。まぁ、あんまり固かったらアンドリアの親友に教師が勤まるわけはないけど。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

«明烏