2008.10.14

かぼちゃケーキを切る前に

『かぼちゃケーキを切る前に』(お料理名人の事件簿2)
リヴィア・J・ウォッシュバーン ランダムハウス講談社

今回は小学校の秋祭りが舞台。昔ならハロウィーンパーティなのだけれど、最近の学校ではそう呼んではいけないらしい。宗教的なので駄目なのかと思ったら、怖がらせるのがいけないとのこと。PTAがPTOと名前を変えていたり、時代は変化してきている。主人公たちが元教師なので、学校に関するいろいろが出てきて面白い。

秋祭りでブースがたくさん出ている様子も楽しそうだけれど、今回はヘルシースナックのコンテストにデコレーションケーキのオークションがある。つくづくアメリカ人というのは、お祭りを盛り上げるのが上手だなぁと思う。主人公のフィリスと、ライバルのキャロリンもコンテストとオークションに出品する。そのうえ、彼女たちは主催者側でもある。

そんな秋祭りの最中にPTO会長が殺される。それもケーキナイフで。というわけで原題は”Murder by the Slice"。Sliceって食卓用ナイフって意味があったのね。

シリーズ2作目で、それぞれのキャラクターにもなじんできて、居心地のよいミステリになっている。

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2008.10.11

おとうさんといっしょ

『おとうさんといっしょ』川端裕人 新潮文庫

父親と育児のかかわりがテーマの短編5つを収録。父と子の関係では、どうしても母を意識せざるをえないものらしい。一作目の『ふにゅう』では育児休職をした父が職場復帰した母に代わって奮闘する話。主人公の頭の中には母親の代理であるという意識があり、母に見捨てられた父子という図式ができてしまっているのを、作者はユーモラスな方法で解決してみせる。

二つ目の『デリパニ』はこの短編集の中では異色。ニューヨークで出産に立ち会う父の姿を描いている。父親になること、新しい命をこの世に送り出すことの不安がテーマなのだが、アメリカ人女性の出産風景がすさまじく、なんだか『ニューヨークで出産に立ち会った日本人男性の体験記』になってしまった気がする。(いくら陣痛が辛くっても、日本人女性は髪の毛は引きちぎらないと思う。)

三作目『ゆすときくんとゆすあしちゃん』は、母と息子の関係に父が嫉妬する話。空回りする父の姿が微笑ましい。息子ってそんなもんなのかなぁと、娘しかいない私には実感がわかない。

四作目『桜川エピキュリアン』は父子家庭が舞台。父の学生時代の友人と偶然再会し、同性愛者の友人に父子家庭ではジェンダーが不明になりホモになりやすいと言われる。一念発起し男性らしさを取り戻すためにジムで鍛える父の姿が描かれる。

最後の『ギンヤンマ、再配置プロジェクト』は、母の不在という意味では最初の『ふにゅう』に似ている。母の四週間の海外出張。その間、父と息子・娘がどうやって過ごしたかという話。父親が子育てしにくい日本の現状が、ここでも語られる。子どもたちの不安、義母の意見、いろいろなことがある四週間をギンヤンマの羽化に合わせて描いている。

特に最後の話は、私がこの夏に2週間休暇で渡米していたことへのあてつけですかって勧めてくれた友人をちょっと恨んだけれど、たぶんそこまでの意図はないと信じたい。全くの偶然とも思えないけど。

現代日本では、どうしても育児は女性の仕事とされがちで、それが元厚生労働大臣の発言に結びついたりもするのだが、この本はその考え方に男性の立場から疑問を投じている貴重な一冊だと思う。

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2008.10.04

アグレッサー・シックス

『アグレッサー・シックス』ウィル・マッカーシイ ハヤカワ文庫SF

西暦3366年。宇宙に進出した人類が始めて遭遇する異星人との遭遇は、人類にとってワーストコンタクトだった。圧倒的な技術力の差をもって攻撃してくる異星人に対して、人類ができることはほとんど捨て身の作戦ばかり。この状況から脱却しようとしてスタートしたプロジェクトの一つがアグレッサー・シックス。アグレッサーは敵情調査班と訳されていて、スパイ物なのかと早とちりしそうになったが、シンクタンクという説明のほうがわかりやすい。2つの脳、4つの性をもち、6人一組でチーム(家族?)を作る異星人ウェッサーの言語を習得し、生活や考え方を真似ることで彼らの戦略を分析し、対抗策を考えるためのチームである。

過去に何度かコンタクト・シミュレーションという場で、いろいろな異星人を想定し、その立場で考えようと試みたことがあった。数時間から数日という短期間でも、かなり「なりきって」しまうことに驚いたものだった。長期にわたって任務として行うアグレッサー・シックスのメンバーの受けた影響は大きく、思いもかけない結論が導き出される。

戦後の日本で教育を受けた私は、戦争の悲惨さを繰り返し教えられた。だからこの作品の背景になる宇宙戦争を第二次世界大戦に、玉砕していく人類が日本軍の特攻隊のように見えてしかたがない。戦争の悲惨さは世界共通ということなのかもしれない。

軍隊の階級が出てきて最初は読みにくかったが、いろいろなアイディアが詰め込まれていて面白い小説だった。

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2008.09.11

ハリー・ポッターと死の秘宝

『ハリー・ポッターと死の秘宝』 J.K.ローリング 静山社

ようやくシリーズ最終巻。これまでの6巻分で広げた風呂敷を、7巻の前半でさらに広げる。6巻の最後で分霊箱をあと4つ探して破壊しなきゃいけないなんて使命が増えたところに、7巻では新たに死の秘宝まで登場。それらが最後には、すべて納まるべき所に納まったのがすごい。

この作者は容赦なく登場人物を殺すので警戒していたのだけれど、やはり何人か犠牲になっている。これだけの戦闘で、味方に被害はありませんでしたって言うほうが変だというのはわかるけど、読者としてはさびしく感じる。この本の背景にはキリスト教的な死生観があるようで、死を必ずしも悲劇的な最期ではないととらえているようだ。魔術をテーマにしているとしてキリスト教団体から非難されていることを考えると皮肉に感じる。

登場人物のそれぞれが、意外な過去をもっていたり、意外なことを考えていたり、意外な活躍をしたりなので、最後まで気を抜けない。私は登場人物の一部を忘れていたりもしたので、7巻連続して読めばいいのだろうけれど、なんとなく前の巻(特に5巻)を読むのは大儀に感じる。この巻だけで色々なことがありすぎて、これまでの6冊がもたもたしているように思えてくる。

この巻では、ホグワーツでの学園生活があまり描かれていないのがちょっと残念。そのかわりにビルとフラーの結婚式がある。ハリー達にとってヴォルデモートとの戦いの前の最後の平和で幸福な時間であり、なおかつ、その後への伏線も含んでいるのだけれど、それとは別に私がこういう魔法使いたちの普通の生活を見るのが好きなので楽しかった。

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2008.09.03

向日葵の咲かない夏

『向日葵の咲かない夏』道尾秀介 新潮文庫

友人が死に、その死体が消えてしまう。死んだはずの友人が姿を変えて転生し、死体を探してくれと頼む。歪んだ世界の奇妙な事件。

友人に勧められた本なのだけど、読み始めたときから、悪意のある世界観が辛く感じた。推理小説としても、完成していないように思う。あとがきを読んで、ホラーサスペンスという言葉を見つけて、なるほどホラーもサスペンスも苦手な私が読みづらかったわけだと納得した。

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2008.08.30

天女湯おれん

『天女湯おれん』諸田玲子 講談社文庫

お江戸八丁堀の真ん中にある湯屋、天女湯には仕掛けがある。隠し部屋があって、男女の仲を取り持つ、今で言うと売春斡旋業のようなことを行っていたのだ。もちろん八丁堀の旦那衆に知られたら大変。そんな危険をあえておかすのは、23歳の美女おれん。使用人も皆、何やら脛に傷持つものばかり。根っからの善人では、そんな隠し部屋の秘密を守りきれない。でも本当の悪人でも困る。

江戸の町は騒がしい。数年おきに火事はあるし、辻斬りが横行する。湯屋で客の持ち物が盗まれることもある。貧しい庶民たちは、そんななかでもたくましく生きていくし、武士もそれぞれの信じるところに従って生きている。

登場人物には嫌なやつもいるけれど、みんなどこか憎めないのは、作者が人間が好きで書いているんだろうなぁと思う。続編があるのだろうか。あってほしいような、このまんまで終わってほしいような、そんな気がする本だ。

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2008.08.29

虚空の旅人

『虚空の旅人』上橋菜穂子 新潮文庫

「守人」のシリーズ4巻目。今回は初めてチャグムが主人公の話。可愛かったチャグムがこんなに立派になっているのが、まず嬉しい。物語の舞台は南のサンガル王国だが、一巻と同じ水の世界<ナユグ>に関連した話。その縁でチャグムも巻き込まれるのだけれど、たぶん、そうでなくても彼は自分から冒険に飛び込んでいっただろう。

いくつもの島々が、おたがいの利益を守るために集まってできたサンガル王国。王国を守る仕組みを担う女性たちの組織。ずいぶん面白い王国の仕組みを考えたものだと思う。ゆるくて固い結びつき。それでもやっぱり王国を守るか、個人の命のどちらを大切にするかという問題が生じる。どうやって、チャグムがその問題に関わっていき、自らの過去を振り返りながら目の前の問題に対処していったのか。

この話は、個人的なエピソードとしてだけではなく、守人世界全体の歴史が動き始めるという意味で重要な巻なのだと思う。この先が楽しみだ。

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魔法塾、はじめました!

『魔法塾、はじめました!』 マジカルランド16 ロバート・アスプリン&ジョディ・リン・ナイ ハヤカワ文庫FT

なんと今度はスキーヴくんに弟子ができる。以前にもマッシャが弟子だったことはあるのだけれど、今回は一度に6人。癖のあるのばかりが集まって実用的な魔術を教えてくれという。確かに彼の魔術は、高度ではないけれど実用的。でもそんな身も蓋もないことを言っては、教師としての威厳が保てない。というわけで、どんな工夫で簡単な魔術であっても実用的なことをアピールするかがポイント。

そして物語の後半、思いもかけない展開の中で、スキーヴが教えたのがいかに実用的な知識だったかが明らかになる。最後まで目が離せないやっかいだけど可愛い弟子たちの活躍も含めて楽しい一冊。

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僕の妻はエイリアン 「高機能自閉症」との不思議な結婚生活

『僕の妻はエイリアン 「高機能自閉症」との不思議な結婚生活』泉流星 新潮文庫

結婚して一緒に暮らしてみて初めてわかることは多い。いろいろな点で驚いたり呆れたりしながら、それぞれの家庭のやり方が決まっていくもの。この本の夫婦も最初はそんな風に考えて乗り切ろうとしていたのだけれど、それにしても変。一つ一つのエピソードだけなら、そういうことって誰にでもありそうだと思うのだけれど、高機能自閉症(アスペルガー症候群)というキーワードのもとにそれぞれの行動には原因があることが明らかにされる。一般の人と違うものの考え方をする妻をエイリアンに喩え、お互いを理解することで平和に共存する道を探り、幸福な結構生活を手に入れるという内容。

この本の妻のすごいところは、結婚後に自らの状況を分析し、高機能自閉症ではないかと考えて医師の診断を受け、可能な限り情報を収集し、対処方法を考える姿勢が前向きなこと。彼女が言語能力に優れているからこそ可能だったことなのだろうが、それを実現する行動力は見習いたいと思う。

一般にこういう病気の本を読んで一つ一つの症状だけを見ると、自分にもあてはまりそうに思えてくる。ちょうど占いの本を読んで、ひとつでも自分の状況と同じことがあると、その占い全体が当たっていると錯覚するようなもの。その結果として自分も病気かもしれないって思えてくるのが、ちょっと怖く感じる。(高機能自閉症を病気と言っていいのかどうか、ちょっと自信がない。)

高機能自閉症について少しわかったような気になり、エイリアンとして生きていく工夫をする姿勢に感銘を受け、彼女の得意な部分での活躍ぶりに感動し、深刻なはずなのだけれど、とても面白い本だった。

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2008.07.29

チャリオンの影

『チャリオンの影』 ロイス・マクスター・ビジョルド 創元推理文庫

架空の国、チャリオンを舞台にしたファンタジー、五神教シリーズ三部作の1作目。父神、母神、御子神、姫神、庶子神の五つの神に守られる世界。5つということと、春を司る姫神を表す色が青だったので中国の五行との関連を考えたのだが、そういうわけではないらしい。ちなみに夏は母神で緑、秋は御子神で赤とオレンジ、冬が父神で灰色、庶子神は季節に関わらない災厄を司り色は白である。魔の王と母神の間に生まれたとされる庶子神の存在が面白い。

主人公のカザリルは35歳、元軍人で捕虜となり奴隷としてガレー船で働かされ、ようやく解放されて故郷に戻ってきたところから話が始まる。運よく、姫君イセーレの家庭教師兼家令としての職を得、平穏な生活をおくることができる、と思うのもつかの間、陰謀や呪いに巻き込まれ数奇な運命をたどることになる。

イセーレと、彼女の幼馴染で女官として行動をともにするベトリス。乙女らしい正義感にあふれた二人は、カザリルの教育を受け、カザリル自身も驚くほどの政治的なセンスを身につけ、すばらしい活躍を見せる。美しいだけでなく、斬新な発想と行動力のある姫君。彼女たちとカザリルや他の人たちとの機知に富んだ会話も楽しい。女の子がかっこいい話は、それだけで嬉しい。

いくら姫君たちがかっこよくても、主人公はカザリルである。卑屈になったり、愚痴っぽくなったりはするが、次々とふりかかる災難に立ち向かっていく。神は時々は祈りに応えてくれるのだが、その方法は人間の意図するものとは違っていて、神も人もそのずれをどう解決していくのかが面白い。上下巻と長い話だけれど、飽きることなく読み終えた。

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